年齢:4か月齢 性別:未避妊メス 体重:3.1kg
概要
階段から落下後、起立不能を主訴に来院した。来院時は、意識レベル低迷、発揚、知覚過敏、外斜視、四肢不全麻痺による起立歩行不能であり、頭蓋内疾患を強く疑う神経症状から即日MRI検査を行い、先天性水頭症と診断した。本症の場合、慢性進行性の病態であり、内科的な治療効果は一時的・限定的である。長期的には臨床症状の悪化とともに、コントロールの限界は否めない。ともすると突然死のリスクもあり年単位での生存を望めない個体も少なくない。外科にはリスクや合併症も伴うが、長期予後を目指すために、V-Pシャント術を行った。術後経過は良好であった。術前の食欲不定、傾眠傾向、緩慢な様子から、術後は、意識レベルの改善、活動性向上、自力採食も安定しQOLが向上した。周術期を経てから投薬は不要となり、退院後は元気に走って散歩へ行くなど健常犬と変わらない日常を送っている。先天性水頭症の早期診断の重要性、早期外科の有用性を経験した1例である。
症例
自宅で生まれた時から、同腹子犬と比べて、トイレなど学習に時間がかかる、元気がない、呼びかけへの反応が乏しい、震えるなどの日常的な様子の違いがあった。
診断
頭部MRI検査より、先天性水頭症、脳挫傷、頚髄挫傷と診断した。 先天性水頭症による進行性の神経症状が基礎にあり、脳挫傷、頚髄挫傷は階段から落下したことに起因する続発障害であると判断した。

治療
受傷後48-72hは特に急性増悪に警戒しながら内科治療を行った。その後の安定期においても、不全麻痺、認知障害、活力低下などが持続し、先天性水頭症の影響が強く示唆され、来院11日目にV-Pシャント術を実施した。

結果
臨床的にも明らかな改善を認め、術後11日目に退院したが、退院10日後に、活動性の低下、流涎を呈し再来院した。皮下に埋めたバルブを触診すると、カテーテルの閉塞が疑われた。CSFの流路障害、排液不良による脳室内のCSF增加、脳圧亢進が原因と考えられた。カテーテルの閉塞は用手で皮下のバルブのポンピングにて解除を行った。同時に抗菌薬を主体とした、支持療法を行った。3日後に症状の改善と再閉塞が無い事を確認し、退院した。
考察
先天性の水頭症は特徴的な外観や、神経症状により気づかれやすいが、症状が散発的、持続的でも軽度の段階では、異常と分かりにくく、急性増悪や進行して著しくQOLが低下した段階で精査に至ることも多い。精査対象とされれば、診断は比較的容易である。対症療法での長期予後は不良となり得るが、V-Pシャント術は脳室内の過剰なCSFを腹腔内に排出できることから、当センターでは外科治療の第一選択としてその有用性に期待している。一方で合併症、費用、若齢時から抱える様々な制約など、生涯を通して疾患との付き合いが始まることへのご家族のご理解が必要不可欠であり、当センターではご家族が安心して治療に臨めるよう、術後の生存期間、QOLについて更なる予後データを集積していきたいと考えている。
執筆者 白鳥 千恵子
ライフメイト動物救急センター 練馬 センター長