年齢:15歳9か月 性別:去勢雄
体重:3.85kg
概要
会陰尿道造瘻術は、遠位の尿道閉塞が原因で排尿困難を呈している症例に対し、永続的な尿道瘻をつくる手技であり、再閉塞を繰り返す尿道の炎症、壊死、狭窄、腫瘍、外傷などに適応される。雄猫の会陰尿道造瘻術として広く知られているのは、1971年に Wilson & Harrisonによって報告された尿道粘膜を会陰部の皮膚に直接縫合する術式(以下従来法とする)だが、常に尿道粘膜が露出しているため、会陰部皮膚炎、被毛の汚れ、尿路感染、尿道瘻の再狭窄など複数の合併症が報告されている。そこで当センターでは雄猫の尿道閉塞に対してYeh & Chinによって2000年に提唱された包皮粘膜を温存した術式を一部改変して用いることで、良好な治療成績が得られているためその概要を報告する。
症例
過去3回の尿道閉塞を経験した際に、執拗に外陰部を舐める行為や自傷行為が認められ、約2年前に陰茎先端を欠損させてしまっていた。尿道は重度に狭窄しているものの、かろうじて排尿は出来ていたが、尿道閉塞を再発したため会陰尿道造瘻術を希望し当センターを紹介受診した。
診断、治療
陰茎先端が欠損していたため尿道口は目視できず、カテーテルは挿入不可能だった。腹部触診では硬い膀胱が触知され、腹部X線検査では結石を疑う陰影は認められなかった。腹部超音波検査では膀胱内の中等度の蓄尿および尿道の拡張が認められた。以上の所見から尿道狭窄による尿道閉塞と診断し、会陰尿道造瘻術を飼い主様に提案したところ同意を得られたため同日に手術を実施した。
●動物を仰臥位に保定し、メスを用いて会陰部を半円状に切皮した。(図1)
●包皮粘膜を筒状に、血流を温存するよう注意して陰茎から分離した。(図2)
●陰茎を周囲組織から剥離し、陰茎後引筋を切断、坐骨海綿体筋を坐骨から切離して陰茎を十分に尾側へ牽引可能にした。8Frカテーテルが挿入できる位置まで尿道背側正中を近位に向けて切開し、尿道切開創と包皮粘膜を5-0PDSを用いて縫合した。術後の外観は尿道粘膜および包皮粘膜は露出しておらず、正常と変わらない。(図3)



結果
術後3ヶ月時点でも排尿障害は認められず、被毛の汚れや会陰部皮膚炎は認められていない。(図4は術後1か月での会陰部の外観)

考察
本症例は繰り返す尿道閉塞に対して外陰部を執拗に舐め壊し、陰茎先端を欠損させてしまっていた。猫の下部泌尿器疾患(FLUTD)は会陰尿道造瘻術の術後にも発症することが報告されている。本症例は泌尿器症状を再発した際には再び外陰部を舐めることが予想され、従来法では露出した尿道粘膜を舐めることにより粘膜の線維化、それに伴う瘻管の狭窄が懸念された。包皮粘膜を温存した会陰尿道造瘻術を選択したことにより、術後から現在まで良好なQOLが得られている。より長期に経過を追う必要があるが、症例の特性にあわせ術式を選択することが重要と考えられた。
執筆者 臼井 政寿
ライフメイト動物医療センター 文京 副センター長