犬の歯周病、症状や治療方法は?治療費や薬、対策法は?

犬 耳1
監修者:安田英巳 院長 
安田獣医科医院(東京都目黒区)

帯広畜産大学後、製薬会社に7年勤務。1982年に「安田獣医科医院」を開院。TRVA夜間救急動物医療センターの立ち上げに協力し、同医療センターと連携して万全の医療体制を整える。学生時代には軟式テニスで北海道チャンピオンとなった経験あり。親戚も獣医師。

よく「犬は人間よりも虫歯になりにくい」といわれます。

虫歯は酸性条件下で増殖をしますが犬の口内は弱アルカリ性に保たれており、人間に比べて虫歯が増えにくい環境だからです。

しかし歯周病には犬もかかります。進行すると歯を失うことにもなりかねません。なりかねない恐ろしい病気なので、きちんとした対策ができる知識が必要となります。

この記事では犬の歯周病について、原因や症状、治療法とその治療費、薬、対策についてまとめています。

 

歯周病とは?どんな病気なの?

子犬

歯周病は大きく「歯肉炎」と「歯周炎」にわけられます。歯肉炎とは歯茎の肉(歯肉)が炎症を起こしている状態のことで、歯周炎とはその炎症が歯を支える骨にまで及んでいる状態のことです。

歯周病とは歯の周りの炎症状態を広く指している病気なのです。

はじめは歯肉炎が進行して症状が悪化すると歯周炎へと名前が変わるので、歯肉炎は歯周病の初期段階といえます。

歯周炎は症状の重さからさらに「軽度」「中度」「重度」と3段階にわけられます。重度の歯周炎となると歯の骨の奥まで炎症が進行しており、歯の骨が溶けてグラグラになってしまいます。治療による完治も極めて難しくなります。

ちなみに「歯槽膿漏」とは歯周病の中でも、重度に進行した歯周病のことを指します。

 

犬が歯周病、かかる原因は?

フレンチブルドッグ

歯周病にかかる原因

歯垢の蓄積
口内の傷
老化

犬が歯周病にかかる主な原因を3つまとめました。

 

原因1. 歯垢の蓄積

歯垢とは歯についた食べカスに細菌が増殖してできた塊のことで「プラーク」ともよばれています。歯垢の中には数100種類の細菌が繁殖しており、毒素を放出しています。この毒素によって歯肉炎が発症します。

愛犬に定期的に歯磨きをしてあげないと、歯に歯垢が溜まってしまいます。歯垢は2~3日放置すると固い「歯石」へと変化し、さらに歯肉炎を悪化させてしまいます。

 

原因2. 口内の傷

何かの拍子に愛犬の口内に傷ができてしまうと、傷の部分から炎症が広がり歯肉炎を発症するケースもあります。犬は飼い主さんに「口の中に傷ができたよ」と報告してはくれないので、日頃から愛犬の口内環境をチェックしておくことが大切となります。

 

老化

よく人間は年齢とともに歯と歯茎のスキマが広がり「歯周ポケット」が増えてしまうといいますが、これは犬も同じです。歯周ポケットには歯垢が溜まりやすいため、老犬ほど歯周病にかかりやすいのです。

 

犬の歯周病、症状は?

犬 素材

歯周病の症状

歯茎が赤い(炎症)
口臭がする
歯茎から出血している
歯がグラグラする

犬が歯周病にかかると次のような症状が現れます。

まず上記で説明したとおり初期段階では歯肉炎が起こるので、歯茎が赤く炎症します。さらに歯周病が進行すると口臭がしてきたり歯茎から出血し始めたりします。歯周炎の兆候といえます。よだれの量も増えます。

また重度の歯周炎となると歯がグラグラになってきます。痛みも出てくるため、ご飯のスピードが落ちたり口周りを触られるのを嫌がったりすることも特徴的な症状の1つです。

ただ一般的に愛犬の歯周病を見抜くことは難しいとされています。

 

犬の歯周病、治療方法は?

レークランドテリア

歯周病の治療法

歯垢と歯石の除去
基礎疾患の治療

犬の歯周病の治療では、歯垢と歯石をしっかりと取り除いてあげることが大切です。1度の治療で完治するケースもあります。

また歯周病の原因となる他の病気を患っている場合はそちらの治療も行います。

 

歯垢と歯石の除去

歯周病の最大の原因は歯垢と歯石なので、治療は歯垢と歯石の除去に徹します。

歯石取りを自宅で行う飼い主さんもいますが、おすすめできません。本来「歯石取り」はトレーニングを受けた獣医師さんが全身麻酔下で処置するものです。

トレーニングを受けていない人による処置が「いかに不適切で危険であるか」は、アメリカ獣医歯科学会のHPにも説明されています。

口腔内の治療に精通している獣医師のもとで、施術してもらうことをおすすめします。

 

原因疾患の治療法

例えば「糖尿病」の犬は歯周病にかかりやすいといわれています。

糖尿病は歯周病を悪化させる要因になっている可能性もあります。歯周病を治療する場合は各種検査を行い、他の問題はないのか調べておくことは重要です。

歯周病を引き起こしやすい病気を他に患っている場合には、それも考慮したうえで治療方針を決定します。

 

犬の歯周病、治療にかかる治療費は?

柴犬5

歯周病の治療費

5~23万円

犬の歯周病の治療費は5~23万円とかなり幅が広いです。

動物病院でスケーリング(スケーラーを用いた治療)を行い歯垢と歯石を取り除いたり、抜歯を行ったりした場合、1回の治療で小型犬は5万円、大型犬は7万円ほどの金額がかかります。

各病院によってその内訳は変わります。歯科専用機器を使用した処置費用や血液検査、歯用レントゲン撮影などです。

なかでも飼い主さんがご心配されるのが全身麻酔でしょう。命にかかわることなので、そのための費用が高額となることもあります。

また1回で完治しない場合は複数回診察を受ける必要があるため、治療費もその分高くなります。

 

犬の歯周病、薬は何を使うの?

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歯周病に使う薬

抗炎症剤
抗菌剤
インターフェロン

犬の歯周病治療には薬が処方されることもあります。

主に炎症を抑える「抗炎症剤」や、口内細菌を退治してくれる「抗菌剤」などが処方されます。

薬には必ず副作用が存在しますので、薬を服用してから「下痢」や「嘔吐」「アレルギー」などが現れた場合にはすぐに獣医師さんへ相談してください。口内の免疫力を高めるために「乳酸菌サプリ」や、歯周部位に塗り込む「インターフェロン」が処方されることもあります。

 

犬の歯周病対策は?

犬 素材

歯周病対策には日々のデンタルケアが何より大切です。犬用歯ブラシで、毎日歯磨きをしてあげてください。歯ブラシが苦手な愛犬は、しつけで慣れさせてあげてください。

毎日歯磨きをすると愛犬の口の中を毎日確認することになります。歯周病の原因の1つである「口内の傷」も発見しやすくなるのです。

また日々の食生活も歯周病対策には大切なポイントです。

具体的には、できるだけドライタイプのドッグフードを与えるようにしてください。固いドッグフードは噛むだけで歯の表面の歯垢を落としてくれますし、噛む回数が増える事で唾液が多く分泌され、歯の表面に付着した菌膜が洗い流されるからです。

逆にウェットタイプのドッグフードは軟らかくて歯の間に残りやすいのです。食いつきがよく何かと重宝することは確かですが、できるだけドライタイプのドッグフードに慣れさせてあげておいたほうが歯周病にかかりにくいといえます。

もちろん、毎日の歯磨きができるのであればウエットフードでも構いません。ただし、比較的食いつきやすいウエットフードに慣れると、ドライフードに変えることが難しくなります。万が一、震災などに遭遇した場合は、持ち運びしやすく日持ちもするドライフードを利用できた方が便利といえるでしょう。

 

歯周病はすべての犬種がかかりやすい病気

ダックスフンド

歯周病はすべての犬種において発症率が高い病気です。

発症してからの治療には費用も時間もかかりますので、普段からの対策を心がけておくことが大切です。

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