安田獣医科医院の安田英巳院長へ取材してまいりました。
安田獣医科医院は東京都目黒区、東急東横線の都立大学駅から徒歩7分のところにある動物病院です。
「One Health」「One Medicine」の医療についてpepy編集部が安田院長にお聞きした内容をまとめています。
この記事でまとめたこと
安田獣医科医院の開業までの道のり
―安田獣医科医院を開業されたきっかけは?
もともとこの目黒区の家で生まれ育ちました。
両親は淡路島出身で、父はこの家で「記録映画」を作っていたんですね。その父は、私が10歳のときに亡くなってしまい、その20年後にこの動物病院を開業しました。
―獣医師免許を取ったときから、開業されるつもりだったんですか?
いえ、昭和49年に帯広畜産大学を卒業したときには、当時兄がアメリカに市民権を持っていまして。その影響もあってアメリカに行きたかったんです。
「病理学」という分野を学びたくて、カリフォルニアのデイビスという大学のドクターと手紙のやり取りをしていました。
しかしこの家を私が離れてしまったら、母が独りになってしまいます。結局アメリカに行くことは一旦諦めて、製薬会社に開発担当として新卒入社しました。
―製薬企業ではずっと開発のお仕事を?
それが1年間で営業の部署に配属されました。「安田は営業が向いてるよ」って。笑
動物病院の先生や農家の方に動物用の薬を提案する仕事でしたが、営業先でお会いする獣医師の先生方がとても楽しそうに働いていたんです。
「自分の専門のことを仕事にしている姿」といいますか、輝いてみえたんですよね。自分も開業しようと思うきっかけになりました。
―その後現在に至るまでにはどんなキャリアを歩まれましたか?
昭和57年に製薬会社を辞職して、58年に安田獣医科医院を開業しました。
それと同時にフィラリアの新しい薬の研究と、ある大学で実習講師の仕事もはじめました。
開業されてから携わっているお仕事について
―まずはフィラリアの研究チームについてお聞きしたいです。どのような経緯だったのですか?
辞職した製薬会社がたまたま「フィラリア」の新しい薬の開発を始めていたんです。その研究チームに運良く加えてもらいました。
薬というのは成分が完成したとしても、実際に治療できるという「症例」を集めないと正式に申請が通せない。
当時もフィラリアの新薬の成分はもう完成していて、その「症例」を集める段階でした。開業したこの安田獣医科医院で「2箇所以上60症例」のデータを集めました。
―そのお薬はその後どうなったのですか?
無事に販売されましたよ。「ミルベマイシン」というお薬です。毎日飲むのではなく、服用は「月1回」で良いという画期的な薬なんです。
他にも北里大学と共同で開発したのが「イベルメクチン」。名誉教授の大村智さんがノーベル賞を貰いましたね。
―大学生の実習講師のお仕事はどのくらい続けたのですか?
22年間。外科の実習の講師を担当していました。
2001年にアメリカの企業からお誘いが
―現在のお仕事を詳しくお聞きしてもよろしいですか?
2001年に「スペクトラムラボジャパン」を開設しました。
アメリカのスペクトラム社から仕事のお誘いが来たことがきっかけです。もともとアメリカに行きたかったこともありますし、「I’m interested in(興味がある)」と即座に返答しました。
―スペクトラム社のもつ技術は優れていた?
IgEというアレルギーの有無を検出する技術を持っていました。その技術もさることながら、ユダヤ人である社長のコミュニティがとにかく広かった。
色んな技術をスペクトラムといっしょに日本に導入しました。
―具体例をいくつか教えて頂けますか?
「ワクチンチェック」が代表例ですね。
犬の混合ワクチンは「毎年」受ける。これが長年の常識でした。
しかし明らかになったのは「きちんと抗体を持っていれば、毎年打つ必要はない」ということ。
抗体を持っているにも関わらずワクチンを打ち続けることは逆に体に負担をかけかねない。
この事実は動物ワクチン界にとって大きな衝撃、レボリューションでした。
その他にも、去勢避妊によって生じる脂質代謝異常症の薬の研究や、バイオフィルムを生成した細菌にも効く抗菌薬など、スペクトラム社とはいろんなことをやっています。
―スペクトラム社との提携を通じて、実現したいことは何ですか?
アメリカの最先端の獣医学技術を日本に広めたい。
獣医学の技術に関して言えば、アメリカは日本の約20年先を行くといわれます。欧米のスタンダードをどう日本に取り入れていくかということに興味があります。
アメリカの最先端の獣医学を日本へ
―アメリカ獣医学の中心は現在どんな分野に向いているのでしょうか。
これがざっとまとめたアメリカ獣医学の歴史です。
時代 | 獣医学の中心 |
---|---|
1850-1920 | 馬 |
1890-1960 | 牛 |
1960-now | 伴侶動物(ペット) |
1980-will | 人獣共通感染症 |
まず馬の獣医学が発展した理由は「移動手段」として馬が大切な存在だったからです。しかしT型フォードの登場で馬の需要はなくなった。日本の軍馬の獣医師とは異なります。
現在はペット(伴侶動物)の獣医学がもっとも盛んなことに加え、「人獣共通感染症」にも目が向けられています。
―人獣共通感染症。動物から人へ感染する恐れのある病気のことですよね。
はい。英語ではズーノーシス(zoonosis)といいます。身近なところで言えば「歯周病」もこの範疇に入るのではと考えます。
なぜ注目を集めているかといえば、「飼い主さん自身の健康のためにペットの健康も保つ」という考え方が浸透してきたからです。
飼い主さんが歯周病をいくらケアしても、愛犬が重度の歯周病患者だったら発症する可能性がある。ということです。
歯周病ケアに学ぶ「One Health」という考え方
―歯周病に対峙するには、人間だけでなくすべての動物が同時に対策する必要がある。一緒に暮らすペットの健康維持は、飼い主さん自身の健康管理にもつながるということですね。
はい。この考え方を「One Health(ワンヘルス)」といいます。ペットを含めた家族全員で病気対策をしようという意味です。
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歯周病を含め、原因となる病原菌はペットも人間も同じ。だからズーノーシスは存在します。
「愛犬の歯はキレイにしてあげましょうね」といういつもの働きかけにプラスして、「自分自身のために」「家族のために」という意識でペットの健康を考えてもらいたい。獣医師さんも然り、飼い主さんもまた然りです。
One Healthの精神を日本に浸透させること。これは安田獣医科医院の基本ポリシーでもあります。
「One Medicine」も非常に大切
One Healthに加え、「One Medicine(ワンメディスン)」という考え方も大切です。
たとえばペットがある感染症にかかったとして、人間に感染する恐れもあったとします。
感染症には抗生剤を処方しますが、抗生剤の種類は「最小限」に抑えなくてはなりません。
イタズラにたくさんの薬を投与してしまうと、菌が薬の成分に適応して耐性菌になってしまうからです。その後たとえペットの病気が治ったとしても、その耐性菌が人間に感染してしまった場合、治療は困難を極めます。
動物に使う薬の種類はできるだけ少ないほうが良い。
「One Medicine」での治療を目指すことが大切なのです。
取材後記
「One Health」と「One Medicine」
人間には医師、動物には獣医師がいます。しかし治療する病気の原因は同じことが多い。中には人から動物、動物から人へと感染する病気もある。
「医学はひとつである」と安田先生は語ります。
ペットと暮らす家庭が増え続ける日本において、人獣共通感染症の話題は今後さらに注目を集めるはずです。特に歯周病は、「老化と並んで必ず発症する」病気です。
人間もペットも、日々の対策が大切な感染症なのです。
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安田獣医科医院は東京都目黒区にあります。
近くにお住まいの飼い主さんは、ぜひ一度先生の元へ訪れてみてはいかがでしょうか。
安田獣医科医院の基本情報
病院名 | 安田獣医科医院 |
---|---|
対象動物 | 犬、猫 |
所在地 | 〒152-0034 東京都目黒区緑が丘1丁目5-22 |
電話 | 03-3717-6186 |
Fax | 03-3725-5484 |
問い合わせ先 | http://yasuda-vet.org/contact.html |